大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4210号 判決 1962年7月25日

判   決

原告

荒木幸次

右訴訟代理人弁護士

安原正之

中村弘

右輔佐人弁理士

黒川美雄

被告

矢崎化工株式会社

右代表者代表取締役

矢崎芳実

右訴訟代理人弁護士

日野魁

右輔佐人弁理士

渡辺軍治

右当事者間の昭和三六年(ワ)第四、二一〇号実用新案権侵害停止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、「一、被告は、別紙物件目録記載の合成樹脂製電力計器箱を、業として、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡または貸渡のため展示してはならない。二、被告は、その所有にかかる右合成樹脂製電力計器箱の製品、半製品および右計器箱の合成樹脂成型に使用する型を廃棄せよ。三、訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

(請求の原因等)

原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。

一  原告の権利

原告は、オールプラスチツク計器箱を考案し、大条駒雄と共同して、昭和三十年十二月三日、右考案につき実用新案の登録出願をし、昭和三十三年十一月二十四日の公告を経て、昭和三十四年四月二十八日、登録番号第四九三、二六四号をもつてその登録を得、現在右大条と右実用新案(以下「本件実用新案」という。)の権利を共有している。

二  登録請求の範囲

本件実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載は、「底箱1の上辺には係合板5下辺には突縁2と半円形の孔3を設け周辺に溝4をつくり蓋籍11の下辺以外の端部周辺を「字形に張り出させその上辺17を更に突出させその内方へ係合板15を設け下辺には中央に突縁12その両側に半円形の孔13を設けたオールブラツク計器箱の構造。」となつている。

三  考案の要部

本件実用新案権の考案の要部は、

(一)  全体を合成樹脂で作り、蓋箱は透明合成樹脂としたこと。

(二)(イ)底箱と蓋箱からなつていること。

(ロ)底箱の上辺には係合板、下辺には突縁が設けてあり、溝をつくつてあること。

(ハ)蓋箱の下端部周辺を「字形に張り出させ、その上辺をさらに突出させ、その内方へ係合板を設け、下辺には突縁を設けてあること。

(ニ)底箱と蓋箱を上辺において両係合板を係合させ、その周辺では底箱の周辺外側へ蓋箱の「字形の周辺を密着嵌合させ、下辺においては両突縁を重ねてしめつけ密着させる構造としてあること。

(ホ)底箱と蓋箱を係合させた箱体に電線引出孔が構成されていること。

の要件を備えた構造にある。

しかして、この考案の目的は、蓋をあけたてしなくても、外部から中のメーターを検視しうることである。

なお、右(ホ)の電線引出孔は、登録請求の範囲の記載によれば、底箱と蓋箱の各下辺に設けた半円形の孔で構成されることになつているが、電線引出孔が上下の半円形の孔で構成されていて円形であるという構造形状は、本件実用新案権の要部をなすものではない。

なお、被告主張の東京電力株式会社の仕様書にある計器箱は、本件実用新案とは、底箱の係合部分の構造等において顕著な差があり、かつ、メーターの検視、絶縁効果等においても差異があるので、単なる材料の変換とはいえない。

四  被告の製品、および、その製造販売等

被告は、業として、別紙物件目録記載のオールプラスチツク計器箱(以下「被告の製品)という。)を製造販売している。かりに、現在は販売していなくても、製造販売その他請求の趣旨第一項記載の行為をする虞がある。また、右製品およびその半製品ならびにその製造に供した合成樹脂成型用の型を所有している。

五  被告の製品の特徴

被告の製品は、構造上、

(一)  全体を合成樹脂で作り、蓋箱は透明合成樹脂としてあること。

(二)(イ)底箱1と蓋箱11とからなつていること。

(ロ)底箱1の上辺には係合板5下返には突縁が設けてあること。

(ハ)蓋箱11の下端部周辺14を「字形に張り出させ、その上辺17をさらに突出させて突出部14を設け、その内方へ係合板15を設け、下辺には突縁12を設けてあること。

(ニ)底箱1と蓋箱11を上辺において両係合板515を係合させ、その周辺では、底箱1の周辺外側へ蓋箱11の「字形の辺部14を密着嵌合させ、下辺においては、両突縁2、12を重ねてしめつけ密着させてあること。

(ホ)底箱の下辺に円形の孔3、3を設け、それにゴム覆環3′、3′が附設されていること。

の特徴を備えている。

六  本件実用新案と被告の製品との対比

被告の製品は、

(一)  本件実用新案にある溝を欠いていること。

(二)  電線引出孔が、本件実用新案におけるように、蓋箱および底箱にそれぞれ設けられた半円形の孔によつて構成されているのではなく、底箱の下辺に円形に開設してあり、これにゴム覆環が附設してあること。

の二点において、本件実用新案と異つているほか、本件実用新案の要部を構成する要件のすべてを備えている。しかして、右(一)の点については、公報の実用新案の説明によつても明らかなように、溝は防湿効果において補助的な作用効果を果すに過ぎず、底箱と蓋箱の係合、密着嵌合、および、しめつけ前記三の(二)の(ニ)構造について湿気は内部へ侵入しにくくなつているのであるから、溝を欠いているということだけで、被告の製品が本件実用新案の技術的範囲に属しないとすることはできない。また、(二)の点については、電線引出孔を底箱に開けるか、底箱と蓋箱の接合部に設けるかは設計上の問題であり、作用効果にも変りはなく、この点は、本件実用新案の要部とはいえないし、ゴム覆環を附することは、単なる附加構造であり、被告の製品が本件実用新案の技術的範囲に属することには変りがない。

したがつて、被告の製品は、本件実用新案の技術的範囲に属する。

七  差止請求

被告は、前記のとおり別紙物件目録記載の物件を製造販売して本件実用新案権を侵害し、または、かりに製造販売していなくても、前記行為により本件実用新案権を侵害する虞があり、さらに、右侵害行為を組成し、あるいは、これに供した前記物件を所有しているから、請求の趣旨第一、二項のとおり、その差止を求める。

(答弁)

被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実のうち、原告がオールプラスチツク計器箱を考案したことは知らないが、その余の事実は認める。

二  同第二項の事実は認める。

三  同第三項の主張は争う。

本件実用新案の要部は、

(一)  底箱の周辺に溝を設けたこと。

(二)  電線引出孔が蓋箱に設けられた半田形と底箱に設けられた半円形とによつて構成されていて、製造過程における型抜きの場合に都合よく考案されていること。の二点につきるのである。すなわち、計器箱を合成樹脂のみで製造することが、本件実用新案出願当時すでに公知であつたばかりでなく、本件実用新案権の要部として原告が主張する構造中合成樹脂製であること、および右(一)(二)の点を除くその他の点も、いずれも、東京電力株式会社作成の仕様書(昭和二十五年四月制定、昭和二十六年八月改訂、昭和三十年十二月改訂実施)によつても知ることができるとおり、本件出願前公知であつたからである。なお、合成樹脂だけで製造する点は、後者の公知事実から、単に材料の変換をしたものに過ぎない、という点でも、実用新案の対象となるべきものではない。

四  同第四項の事実は否認する。被告は、昭和三十六年九月までは、被告の製品を製造販売していたが、それ以後は製造販売していない。

五  同第五項の事実は認める。

六  同第六項の主張は争う。

本件実用新案は、前記のとおり、溝を設けたこと、および、電線引出口を二つの半円形で構成したことにその要部があり、被告の製品は、右二点を欠いているから、本件実用新案の技術的範囲に属しない。

七  したがつて、原告の請求は失当であるから棄却さるべきである。

(証拠関係)(省略)

理由

(争いのない事実)

一、本件実用新案権が、原告主張のとおりの経過で、登録されたこと、原告が現在、本件実用新案権を大条駒雄と共有していること、本件実用新案の願書に添付された明細書の登録請求の範囲の記載が、「底箱1の上辺には係合板5下辺には突縁2と半円形の孔3を設け周辺に溝4をつくり蓋箱11の下辺以外の端部周辺を「字形に張り出させその上辺17を更に突出させその内方へ係合板15を設け下辺には中央に突縁12その両側に半円形の孔13を設けたオールプラスチツク計器箱の構造」となつていること、被告製品が別紙物件目録記載のとおりの構造を有すること(製造販売の時期の点を除く。)およびそれが原告主張のとおりの特徴を有することは、本件当事者間に争いがない。

(本件実用新案の要部)

二、当事者間に争いのない前記登録請求の範囲の記載、および、(証拠)を総合すれば、本件実用新栄の要部は、次の諸点およびその結合にあるものと認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(一)  全体を合成樹脂で作り、蓋箱はとくに透明樹脂としたこと。

(二)  底箱と蓋箱とからなつていること。

(三)  底箱の上辺には係合板、下辺には突縁を設け、蓋箱の下辺以外の端部周辺を「字形に張り出させ、その内方へ係合板を設け、下辺には突縁を設けてあり、底箱と蓋箱を、上辺において両係合板を係合させ、その周辺では底箱の周辺外側へ蓋箱の「字形の周辺を密着嵌合させ、下辺においては両突縁を重ねてしめつけることにより、密着させる構造となつていること。

(四)  底箱の周辺に溝を設けてあること。

(五)  底箱および蓋箱には、それぞれその下辺両側に半円形の孔を設けてあり、右半円形の孔によつて、箱体の下辺に円形の電線引出孔が設けられるようになつていること。

また(証拠)を綜合すれば、本件実用新案出願当時以前には、もつぱら、鉄製の計器箱が積算電力計の取りつけ用に用られていたが、その構造は、鉄箱を加工したもので、メーター検視用の硝子窓をそなえ、底箱と蓋箱からなり、蓋箱の下端部周辺は「字形に張り出して底箱の周辺外側に密着するようになつており、底箱と蓋箱は、その各上辺を係合させ下辺においてボルトでしめつけ密着させ、底箱下辺部には円形の電線引出孔が二つ設けられている、というものであつたこと、本件実用新案出願当時、一般に合成樹脂によつて種々の製品が製作され始めていたこと、本件実用新案における底箱と蓋箱の係合、嵌合密着、および、しめつけに関する構造が従前の鉄製のものと類似の構造であり、合成樹脂によつてこのような構造のものを作成することは、きわめて容易とはいえないにしても、必ずしも特別の創意を要するものとではないこと、電線引出孔を二個の半円形で構成する構造は、たとえば、底箱に真円の孔をあけて電線引出孔とする構造をとるよりも、合成樹脂の成型加工上容易であること、および、本件実用新案における溝は、底箱と蓋箱の嵌合部分が防湿作用を有するにもかかわらず、これを侵して侵入してくる湿気を凝集させて下方から外部へ流出させる作用効果をもつことが認められ、(中略)他に右各認定を覆するに足る証拠はない。しかして、右認定の各事実によれば、前認定の本件実用新案の要部を構成する各要件の間には、その間に、合成樹脂を材料としたことのみが特別の意義を有する等とくに軽重ありとすることはできず、いわんや、周辺に溝を設けることが、補助的な防湿作用を有するにすぎないとの理由によつて、要部に属しないとすることはできないものと判断される。

(被告の製品の特徴)

三、前掲当事者間に争いのない事実によれば、被告の製品は、構造上、次の特徴をもつことが明らかである。すなわち、

(一)  全体を合成樹脂で作り、蓋箱は透明合成樹脂としてあること。

(二)(イ)底箱と蓋箱からなつていること。

(ロ)底箱の上辺には係合板、下辺には突縁が設けてあること。

(ハ)蓋箱の端部周辺を「字形に張り出させ、その上辺をさらに突出させて突出部を設け、その内方へ係合板を設け、下辺には突縁を設けてあること。

(ニ)底箱と蓋箱を上辺において両係合板を係合させ、その周辺では底箱の周辺外側へ蓋箱の「字形の辺部を密着嵌合させ、下辺においては両突縁を重ねてしめつけ密着させる構造としてあること。

(ホ)底箱の下辺に円形の孔二個を設け、それにゴム覆環が附設されていること。

(本件実用新案と被告製品との対比)

四、被告の製品は、

(一) 全体を合成樹脂で作り、蓋箱は透明樹脂としてあること。

(二) 底箱と蓋箱とからなつていること。

(三) 底箱の上辺には係合板、下辺には突縁を設け、蓋箱の端部局辺を「字形に張り出させ、その上辺をさらに突出させ、その内方へ係合板を設け、下辺には突縁を設けてあり、底箱と蓋箱を、上辺において両係合板を係合させ、その周辺では底箱の周辺外側へ蓋箱の「字形の周辺を密着嵌合させ、下辺においては両突縁を重ねてしめつけることにより、密着させる構造となつていること。

の諸点において、本件実用新案の要部を構成する要件を備えているが底箱の周辺に溝を設けるという要件をまつたく欠いており、また、半円形の孔によつて円形の電線引出孔を構成するという要件については、被告の製品は、円形の電線引出孔を底箱に設ける構造のものであつて、両者の間に前認定のとおり製作上難易の差があること、この構造の相違から、計器取り付けの際の電線の処理についても多少の相違を来すべきことが容易にうかがえること、および、前説示のとおり、各要件の間に軽重があることは認められないこと等を合せ考えれば、被告の製品は、右要件の構造と均等の構造を有するとは言いえないものであるから、結局、被告の製品は、右二要件を欠くことになり、したがつて、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべく、これを覆えすに足る資料はない。右に反する甲第二号証の一の見解は、当裁判所の肯認しがたいところである。

なお、被告の製品は、本件実用新案にないゴム覆環をそなえているが、このことは、それが単なる附加的構造であると否とにかかわりなく、前記二要件の欠缺を理由とする右判断に影響を及ぼすものでないことは、いうまでもない。

(むすび)

五、叙上のとおり、被告の製品は本件実用新案の技術的範囲に属するものとは認めえないのであるから、これが技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、被告がその製品等について、原告主張のとおり、製造販売等の行為をし、または、その虞があるか等について判断するまでもなく、失当として棄却するほかはない。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 楠  賢 二

裁判官 竹 田 国 雄

物件目録(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例